古都台南がいかに5日間で6億NT$を稼ぎ出したか?

古都台南に4日間で世界中から85万人もの観光客が押し寄せ、6億NT$もの観光収入をもたらしたイベントはどのようなものなのだろうか。デング熱、2016年南台湾大地震、中国大陸客の減少などの苦境を経て、今回のイベントが台南の観光業にもたらしたものは一時しのぎの劇薬か、はたまた解毒剤か。

 

優美な奇美博物館。11月3日に世界中から来たポケモントレーナーたちは、うつむいてポケモンを捕まえながら公園を歩いては「出た!ジーランス!」「あっ、色違い!」と叫んでいた。

スマホの画面に飛び出しためずらしいポケモンは、普段は出会うことのできないポケモン台南市中でたっぷり捕獲できるためトレーナたちは大興奮だ。

 

11月1日~5日、台南市政府と<<PokemonGO>>Niantic社共催の「PokemonGO Safai Zone in Tainan」イベントのメイン会場は奇美博物館。そして台南全域の30カ所に散らばる観光名所(安平古堡、柳営区徳元埤オランダ村、七股塩山等)では色違いのイーブイも出現した。

 

ニュージーランド限定のジーランスや色違いカイロスチルット等が出現するなど、ポケモンGOが台湾で配信が開始されて以来の初めての大チャンスとあって、1か月前にイベントが発表されてから台南の宿泊施設は一瞬で満室となり、高鐵の早得切符もあっという間に売り切れとなった。

 

もともと、台南市政府は5日間のイベントで20万人が台南を訪れると控え目に予測していたが、イベント4日目(11/4)で85万人を突破。想定していた観光収入も1人あたり1500NT$想定で、総額が3億NT$から6NT$へと激増した。

 

イベントへは、日本、香港、シンガポールポーランドアメリカ、ドイツ、スイス、オランダ、ニュージーランドなど多くの国々からめずらしいポケモンのために我先にと訪れた。

 

「宿泊業者は、“局長ありがとう。満室でお客さんに怒鳴られた経験なんて、久しくなかったよ”と話していた。」宿泊業者はもともと台南市がこのようなイベントを行ってもホテルは満室にならないだろうと懐疑的だったが、ふたを開ければこんなにもすごい効果があるとは思いもよらなかったようだ、と台南市政府観光旅遊局の王時思局長は晴れやかに語った。

 

ホテル業界だけではない。台南周辺の店舗やイベント会場内で販売を行った業者も大いに潤った。ドリンクを販売していたある業者は今回のイベントで、売り上げが20~30%UPしたと述べた。

 

記者が奇美博物館を歩いたとき、多くの外国から来たトレーナーがいた。日本在住8年のアメリカ国政のLina Orta、Roland Orta夫妻はポケモンの大ファン。台湾でイベントがあると聞きすぐにホテルと飛行機のチケットを押さえたという。

「初めて台湾に来たの!」Orta夫妻はポケモンのために台湾を訪れたが、同じ様な観光客が台南の観光収入を大きくUPさせただけではなく、高雄、嘉義などの周辺都市にも恩恵をもたらした。

 

香港から来た鄭さんは2人の仲間と訪れた。高雄アリーナ近くに滞在し、イベント終了後は高雄周辺を観光、食事も楽しむ予定だ。

東京からやってきたナオヤは母親とともに休日の2日を利用し、高雄で滞在している。シンガポールからやってきた9人のグループも高雄泊。台南でのこのイベントで、周辺地域にもビジネスチャンスをももたらしている。

 

また、旅行業者は「弾丸ツアー」「1泊2日、5つ星ホテル宿泊」などの特別プランを打ち出したが、特に後者に人気が集まり、1000以上もの予約は、発売した1週間後には完売となった。「イベント前の数日間にも、100を超える空きの問い合わせがあった」

雄獅グループ宝獅旅行者の総経理黄信川によると、同僚がポケモンGOをやっていて、Lineグループにも多くの熱心なトレーナーがいる。このようなファンの反応を見ていたので、台南でポケモンのイベントがあるというニュースが出た途端、同僚はすばやく行動し、すぐに関連特別ツアーの案を出してきていた。

 

ポケモンというスマホゲームは、一昨年台湾に配信が開始されてから、今でもこれほど吸引力があるとは想像していなかった。今年2月の元宵節に、嘉義県政府もNianticと合同で嘉義ランタンフェスのイベントを行った。1週間で50万人が嘉義を訪れランタンフェスに花を添えた。

 

しかし、台南は2015年にはデング熱、2016年には南台湾大地震、そして大陸旅行客の激減などの苦境のため観光エネルギーは萎縮し、市議員が疑問の声を上げるまでになっている。台南の今年2月の春節の観光客延べ人数は昨年の年越しをしなかった観光客よりさらに少なかった。奇美博物館がオープンした際、かつてはトップの観光名所だったが、2017年の入荷者数は40万人に落ち込んでしまっていた。また、台南市の主要観光リゾート拠点の観光客ののべ総数も、2017年8月には153万人だったのが、今年の8月には137万人のみとなっていた。

 

台南観光局が祭りや料理観光などの観光戦略に知恵を絞っているなか、ゲームのための観光もよい方向ではないかと考えたていた。Niantic傘下のバーチャルリアルティゲームIngressが多くのプレーヤーに人気を博していたため、市政府は協力を求める前、「ポータル」「レジスタンス」等とは何か、「ゲームはどのようにして現実と結びつけるのか」「どのようにして観光との相乗効果を出すのか」などのゲームの神髄をまず長官に理解してもらった。

 

結果、台南市Ingress共同開催の2日間のイベントには7,000名以上のプレーヤーが訪れ、そのうちの500名が外国から来て台南中を歩き回るのを目にし、「初めてスマホゲームのパワーを知った」。王時思局長によると、このイベントが市政府の大きな後押しとなり、<<ポケモンGO>>が配信されてすぐに、市政府はNianticと連絡を取り、再度イベントを行いたいと希望した。

 

ポケモンGOはプレーヤがIngressよりも多く、範囲もひろい。Niantic社もアメリカ、日本、ドイツ等で大規模なポケモンGOのイベントを開催したことがあったが、市内全域を範囲としてイベントを行ったのはドイツのドルトムントのみだった。日本などの地域は一部の場所で、加えてイベント参加券の入手が必要だった。台南がイベント開催を決定したとき、市内全域を活動範囲としてこそ、都市全体のPRを行うことができるので市全域での開催を希望としていたが、Niantic社は難色を示し交渉は困難を極めていた。

 

というのもNianticはブランドイメージや知的財産権を重視しており、市政府が対外的に発表する動画や写真、新聞記事はNiantic社の確認が必要である。Niantic社はまたゲームのクオリティにもこだわっているため、ネット回線のスムーズさや交通、会場、収容人数などについての詳細な計画と問題解決策の提出を求められた。そして市政府も最高の結果を出すと約束した。

 

そのため、市政府は台鐵や高鐵に臨時便を要請するだけではなく、すべての通信事業者と綿密な打ち合わせを重ね、ようやくNiantic社からのOKを得、イベント開催が実現した。交通、電信、人員、行政活動等の費用として合計360万NT$を費やしている。

 

「台湾のネットカバー率はとてもいいけど、ネットの快適さは一番重要」Nianticアジア太平洋地区コミュニティマネージャーの梁暁彤は断言する。双方がイベントをよりよいものにしようとこだわったからこそ、このイベントは問題もなく順調に終えることができた。ドイツや日本ではネット回線が重く、長時間にわたって問題が解決しないということがあったが、今回の台南では、「11/3現在、耳にした回線に関する問題はごくごく一部で、それも10分くらいのみだった」今回のネット回線についてはおおむね満足のようだった。

 

市政府はNiantic社に「イベントをやりとげる」ことを説得しただけではなく、奇美博物館の了解を取る必要もあった。奇美は当初、20万人もの人がおしよせると聞き、芝生が荒らされ、会場は破壊されるのではと非常に危惧していたため、交渉は難航していた。結局、市政府が環境保全のための人員を増やすこと、ごみ箱の設置することなど諸々の解決案を出すことで、奇美の不安を取り除こうとした。

「当初から台南市政府のイベント開催に対する情熱が非常に強く感じられ、心配事も解消してくれるだろうと思った。面積も広く、駐車場も多数あり、近くに鉄道の駅もある奇美は、とてもよい会場だと思った。古い情緒ある街並みも一目で気に入ったし、すべての部分の準備は我々が予想していた以上のものだった」Niantic社の梁暁彤マネージャーは称賛した。

 

興味深いことに、Niantic社がジーランスを選んだ理由は、台南は港町のため。また「海」ポケモンに特にしぼって、ヒンバスラブカスの出現率も増やした。

 

双方はイベント期間中、安全に行われるようにお互いに協力しあった。例を挙げると、人があふれている場所があれば、市政府を経て現場に報告され、Niantic社のエンジニアがその場所の出現ポケモンの量を減らすなどして人の流れをよくし、ゲームの安全を確保していた。

 

台南でのゲーム設計はさらに綿密に計画された。嘉義ランタンフェスと今回のイベントともに参加したトレーナーによると、嘉義の時は大量に珍しいポケモンが大量に何匹も出たので、一時間ほどで現地を離れられたが、今回はもっと多くの種類の色違いポケモンも出て出現率もまぁまぁだったので、まる一日あれば十分捕まえることができた。

 

最後に、ポケモンイベントは短期の効果かそれとも台南の観光にとって今後も助けとなるのか?奇美博物館の傍にある、台糖十鼓文創花現虎楽活市集にて茶タマゴ、冷たいお茶などを売っている曹さんは、「一時的な効果だけだろう。飲食業についていた時、中国大陸の旅行客がくればすぐ業績は2倍、3倍となるパワーはあったけど、今回のイベントは大陸旅行客の代わりにはならないし」と話した。

 

しかし、王時思曲直は説明した。台南は自由旅行者がメインで全旅行者の85%以上を占めているので、大陸からの旅行者は主力ではない。そのため大陸旅行客が来なくなったことの影響はそれほど明確ではない。ポケモンイベントは3つの効果がある。短期的にみれば、今回の活動は毎日16:30に終了するので、トレーナーは台南の各地の観光名所を巡ることができる。これが一つ。2つ目として、市政府はレストラン、文化創意産業、土産物等111社と協力し、アプリを見せれば優待が受けられた。3つ目は30カ所の観光スポットが台南全域に分布しており、人を分散させることができただけではなく、外国からの旅行者に順番にいろいろな場所へ遊びに行ってもらうことができ、観光名所を訪れる人が大きく増えるチャンスとなった。

 

黄信川も以下のように述べた。今回のイベントはよいアイデアだった。計画が斬新だったし、効果もある。もともとある土地と資源を用い、現地の人たちにも利益がある、永続的に観光を行うことができる方法だ。

 

長い目で見れば、「台南はずっとこう言っていた。“10万人の人が10回来てほしい、100万人の人が1回だけはいらない”」王時思によると、今回のイベントを機に、今回台湾を訪れた外国人が台南に対し良いイメージを持ち、多くの世界中の友人に台南へ旅行するよう進めてほしい。しかし都市の主役はやはり市民である。過度に大型イベントに頼りすぎてしまうと、この都市はたちまち消費され、特色のないものになってしまう。そのため台南はやはり「文化首都」の役割を貫いてほしい。

文化古都は今回の活動によって新しい局面へと踏み出すのか。期待して見守ろう。